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瀬戸内海一帯は日本でも屈指の重工業地帯でありながらもまた広大な瀬戸内海国立公園が含まれていて、両方の風景を楽しめる土地柄となっています。今回紹介させていただく相生市は日本を代表する重機メーカーが鎮座することでも知られており、海岸線の美しさが際立つ目に楽しい所ですね。その街の一大イベントが毎年5月末に行われる「相生ペーロン祭」(通称・ペーロン)であり、相生市民総出の賑やかな競漕競技として知られているのです。

≪造船所の街・相生≫

現在は別の社名を名乗っていますが、当地を代表するこの巨大企業は元々は別々の会社であり、一代前の複合企業だった証である地名にその名残がありました。明治末年に起業した歴史ある名門企業に相応しく、何度かその形態は変わっているものの一貫してこの相生の地を「造船の街」としていたことでも知られています。戦前は旧海軍の小型艦艇の建造にも携わっていましたが、戦後は一変して商用船を中心に励んできました。大型のフェリー等も手掛けているので、もしかしたらどこかで利用された方も居られるかもしれませんね。かつての花形作業だった「重厚長大」を代表する造船業界も世界的な不況に襲われてからは以前のような華やいだ雰囲気からは遠ざかっているように見えて残念です。けれども経営の多角化が成功し、それまでの造船に頼っていた体質から脱却し、様々な先端分野への挑戦を続けているその姿勢は、さすがに「技術大国・日本」を支えてきた誇りであるのです。
馬蹄形に広がる相生湾に位置する大規模な造船所は、再びかつての栄光を取り戻すべく静かに捲土重来を期している様に見えて、その日が一日でも早く訪れることを祈らずにはいられませんよね。ぜひそうなって欲しいですよ。

≪本場の長崎にも負けない・相生のペーロン≫

「ペーロン」の由来は中国であり、「白龍」(パイロン)が語源だと言われています。この日本では古くから中国と深い関りを持つ長崎でその文化が根付き、その風物詩となっています。では九州のその長崎から遠く離れた兵庫の瀬戸内側であるこの相生にもなぜこの文化がもらされたのか。その答えはやはり造船にありました。長崎も日本を代表する造船の街の一つであり、その技術を伝えるために訪れた技術者達が自分達の故郷を偲んで初めてたのが今日のペーロンの始まりだと言われています。
ペーロンは本来は中国での端午の節句を祝う行事であったものの、この日本では関連性は薄れて長崎では7月、相生では5月のそれぞれの最終日曜日に盛大に行われています。ここ相生で5月に行われるのは終戦までは「海軍記念日」だった5月27日に行われていたので、その伝統も受け継いでいることにもなるのですが、本来の旧暦の端午の節句に近いというのも由緒あることですよね。ペーロン祭のプログラムは多彩で、前日の土曜日には海上花火大会等の華やかな催しも行われ、祭りの雰囲気を盛り上げるのです。そしていよいよ当日。午前中から多くのチームが参加して、腕自慢の市民たちが鍛え上げた腕前を観客に披露するのです。メイン会場は海岸線に設けられている「ポート公園」で、ここから観客たちは勇壮な海上競漕を眺めます。工場を背景にした迫力あるその姿は絶好の撮影ポイントでもあり、多くの力作が毎年撮られているのです。この伝統行事は緑で包まれる5月の締めくくりとして、来るべき梅雨の季節を迎えるイベントとしてすっかり定着しました。その迫力は本家である長崎に決して見劣りのしない立派な祭典です。
今年も世の中はコロナ禍に見舞われていますけれど、規模を縮小して行われるそうなので安心しました。ポート公園から駅まではかなり離れているので、歩く覚悟が必要ですけど、水上の格闘技たるペーロンを見に行きたいのなら苦にはならないでしょう。


≪ゆっくり温泉に浸れるペーロン温泉≫


ペーロン祭のメイン会場であるポート公園から西へ足を運べば、相生市民の憩いの場である「市立中央公園」と「ペーロン温泉」があります。ペーロン温泉には入浴設備の他にも「道の駅」やレストラン・その他の商業施設が用意されていて、訪れる人を迎えてくれます。温泉は手頃な料金で楽しめ、休日には利用客が列を成すほどの盛況ぶりです。周辺以外の人には意外と知られていない穴場ですので、山の緑と海にに包まれたここへ足を伸ばしてみませんか?



≪まとめに≫


「相生ペーロン祭」は来年、記念すべき百年目を迎えます。明治の末に造船所が設けられて以来、ここ相生は常に「造船」と共に歩んで来ました。造船所はかつてほどではないにせよ現在でもこの街を支えていて、穏やかな湾の水面にその姿を映しています。昔と変わらないような緑の山と青い海。それに対する近代的な機械の未来的な美しいライン。係船しているフェリーの姿も見られて絶好の風景です。東隣りの室津までの間には「万葉の岬」もあって、そこからはこの周辺の豊かな海の産物である、名産のカキを育てるカキ筏が静かな海面に並んでいるのは感動的ですよ。車でしか行けないのが残念ですが、播磨灘や家島諸島、それに四国まで見渡せるので立ち寄りたくなるのではないでしょうか。お勧めしますよ。

観光地としての規模は大きくないかもしれませんが、ここ相生は西播磨の名所になる日が来るのも遠くないでしょうね。