シリーズ:料理の基本 その1【ベーシックなトマトソースを 洋食の基本】
洋食の華は、なんといっても華麗なソースです。もちろん市販品のとんかつやウスターなどではありません。
洋食を生涯の生業(なりわい)に志す人たちにとって欠かせないのは、まずは修業ですね。これはまあ、どの職種でも基本は変わりませんが、この世界ではまずは下働きから始められます。厨房を清潔に保つ清掃や皿洗い、買い出しの荷物持ち、切れ味を良くするための刃物研ぎ、備品の管理…数え上げればきりがないほどなのです。それからようやく野菜や生肉の下ごしらえが許されるようなり、先輩の指導や技術を見ながら段階を経て一人前の料理人となって行くのですよ。なかなか厳しい世界ですよね。
もちろん技術の習得は「盗むもの」なので、親切な先輩の料理人でも全てを教えてくれるわけではないのです。調理学校では型通りの技術は教えてくれるものの、一流店での自慢料理としてそれが即座に通用するのは難しいことだとは言えるでしょう。
手っ取り早い方法として、皿洗いの時に先輩が使った鍋を舐めてソースの味を盗む。これは誰もが一度は思うことです。しかし職人の世界は厳しく、皆が通る道なので味が盗まれないように鍋には既に洗剤が入れられていた…という日常なのです。
長くなりましたが、ソース一つでもこれだけのドラマが食する前に盛り込まれているのです。フランス料理ではデミグラスやベシャメルに始まり、本当に料理の数だけソースが存在していると言っても過言ではありません。これはソースではありませんが、フランス料理の基本中の基本であるフォンドボーでも非常に手間暇をかけて作られているので、その苦労が並大抵ではないことが容易に想像できるでしょう。
では、そのソースを家庭でも作れるのか。結論から言えばイエスです。ただし、相当な覚悟と費用と時間を必要としますので簡単には手を出さない方が無難だと思います。ですので今回は、日本でもすっかり定着したイタリア料理(和製のイタリア風を含む)で重宝すること必至の手作りの「トマトソース」を紹介させていただきましょうか。
≪市販品には無い深い味わいのトマトソースを目指そう!≫
スーパーに行けば、洋食の食材を扱う棚にずらりと各種の料理用のソースが並べられています。レトルトや缶詰や瓶詰、箱入りの素材に手を加えて完成させるタイプの物まで。本当に多種多様な眺めですよね。手早く夕餉のメインにしたいのならこれらを上手に使いこなすのも料理名人の腕の見せどころでしょう。でも結構割高な代物もあるので、懐具合を常に気にする人には少し縁遠いような…。
こういう時には、近くに並んでいるトマトの水煮缶を手に取りましょう。これから美味なトマトのソースに仕上げるのはあなた次第ですから、しっかりと覚悟しましょう。
〔用意するもの〕
●トマトの水煮缶:1缶/●タマネギ:四分の一個(みじん切り)/●水:適量(仕上がりの調整用)/●オリーブ油:(風味付けにお好みの量を)/●みりん:大さじ1杯程度/●コンソメブイヨン:1個/●砂糖:小さじ半分程度/●塩:少々/●黒コショウ:適量/●小鍋:/●木杓子:/●保存用の容器:(蓋付きのものを)
- 小鍋にトマトの水煮缶の中身を全部移す。缶の切り口で怪我をしないように気をつけること。
- 缶詰の内側にみりんを入れて残りの汁をおー溶かして小鍋に加える。後始末が気になるなら、少量の水を加えて同様にすると後が楽。3.コンソメブイヨンを細かく砕き小鍋へ。それから中火にかける。
- トマトを煮込みながらタマネギのみじん切りを加える。
- 具材が柔らかくなると弱火にして木杓子でていねいに潰してゆく。
- 水分が少なくなり、好みの状態になると調味料で味を調えて火を止める。
- 粗熱がなくなればできあがり。
〔ポイント&ひとこと〕
- ◆本格的にしたいのならアンチョビを加えるのもお勧めだが、クセがあるのでお好みで。
- ◆熟し過ぎたトマトを使うのも良いが、皮を湯煎で剥くなどの手間をかけた方が舌触りが良くなる。
- ◆トマトの水煮はホールは扱い辛いのでできればカットのものを使う方がお勧め。
- ◆小鍋にオリーブ油にニンニクと赤唐辛子を加えて成分を抽出してからトマトを煮込めば風味が良くなる。赤唐辛子を出し忘れるとトマトソースと見分けがつき難くなるから早めに出すようにする。
- ◆オリーブ油は保存する間に加える方が良い。酸化を防ぐためにきっちりと蓋をする。
- ◆時間短縮のためにタマネギのみじん切りを電子レンジで加熱する方法もお勧め。この際には、オリーブ油を少し加えると味も風味も良くなる。できがりはタマネギが透明になるくらいを目安に。高温となっているので火傷に注意すること。
- ◆できあがったトマトソースの風味が足りないなら、ケチャップやウスターソースで味を整えるなどの方法もある。
- ◆何らかの理由でトマトソースが煮詰まってしまったら、水よりはトマトジュースでのばす方がお勧め。
- ◆お好みでアンチョビ、バジルなどを加えるとより本格的なものとなる。
- ◆できあがったトマトソースは冷蔵庫で保存し、できるだけ使い切ること。
基本的なトマトソースです。いかがですか。少しの手まで使い勝手の良いソースを作れるのです。
これをベースにして、トマトソーススパゲッテイ、ペスカトーレ、ボンゴレ、ナポリタンやピザにピザトースト、ミネストローネ、オムライスなど本当に多くの洋食に使えるので、覚えておけば重宝しますよ。少しぜいたくしたいのなら、生クリームを加えたソースに仕立てるとクリームコロッケとの相性は抜群ですから、ベシャメルソースと共に使いたくなるでしょう。
料理自慢になりたいなら、カレーのマイルドな風味付けにも使うのもありですね。もちろんビーフシチューにも。ステーキに温めてかけるのもオツなやり方になるでしょう。野菜スープに好みの量を使うのもかまいませんし。
基本なくして応用なし!。これが料理の現実なのですから。
外国語の発音の日本語での表記は時代と共に変化しているので、これからも料理に関する事柄については、慣れ親しまれている表記とさせていただきます。料理の世界では常に新作が誕生し続けています。けれど食の基本については昔からの路線が尊重されていうよるように、先人たちの労苦に敬意を表することでもあるからです。ご理解いただけたら幸いです。
あの流麗なフランス料理もイタリア料理から発展した歴史があります。イタリアで多用されているトマトを使った料理、それも大元のトマトソースから奥義を極めることにしませんか。
料理という無限の大洋へ漕ぎ出す一歩になればいいですね。良き航海を!