利用者ブログ


食文化は日々怠ることを知らず、ますます充実していますよね。
この日本でも昭和の最末期に「バブル」と呼ばれる狂乱の一時期が巻き起こり、世界中の美味珍味をなりふり構わずに「ただ高価だから」という単純極まりない理由でかき集めるという椿事が都会を中心に起こったことがありました。さすがにあれから相当の時間を経て「飽食」という問題だらけの風潮はかなり改善さえてきたようには思えるようにはなりました。これは狂ったような金の無秩序な動きの反動として今日まで影響を未だに及ぼしてる深刻な長期の不景気も主たる原因の一つではありますが。でも、食に対する認識が良い意味でかわってきたのは喜ばしいですね。
しかしですよ。日本人が昔から抱えこんでいる「野菜不足」に対して一挙に改善されるまでには及んでいません。
カロリー的には十分過ぎて、脂質と糖分、それに塩分はたっぷりと摂取していても身体に不可欠な他の要素は必要量に達しているとはいい難いのが実情のようです。美味と口当たりの良さには敏感だけど、身体の調整に役立つその他の栄養素に関しては若年層を中心に見事なまでに無関心なままであるようなのはもはや危険レベルに達しているでしょう。


消費者の立場では、季節ごとに野菜類の価格の差異が未だに相当に大きく、天候その他の要素で安定供給が危ぶまれるような流通形態では関心度が大きく左右されるのも理由の一つではありますが。技術改良が進んだ今日でも完璧な対策の誕生へはまだ多くのステップが残されているので、野菜中心の献立、というのは考えにくいのかもしれません。近頃では近代的な工場内で好適に調整された環境下で栽培された野菜類が葉物類を中心に相当出回るようになってきました。人間は保守的な生き物なのでこれらに未だ抵抗感を持つ人もかなり存在するようです。これも時間の経過で改善されるでしょうが。


いつものように前置きが長くなりました。要するに日本人は野菜嫌いが多い、ということです。野菜を食べても満足感が無い。嫌いだという理由の中でこれは大きな割合を占めるはずです。ああ、困りましたね。多くの野菜は満腹するまで食しても満足感を伴うことは少ないようなので、野菜不足が叫ばれる今日の社会での解決策は?
満腹にはおそらくなれないでしょうけれども、作りやすくてある程度の保存も効く一品を紹介させていただきましょう。



≪キャベツと塩と少々の香辛料だけで作ることができる ザワークラウト≫


キャベツと塩と少々の香辛料だけ。これだけでドイツで人気のザワークラウトを作ることができるのです。過去には確かにキャベツも異常なくらいに価格が高騰したこともありました。しかし、通常は比較的安定した価格で入手でき、しかも刻む手間を惜しまなければ家庭でも簡単にこのザワークラウトは作れるのです。ドイツ風の漬物だとも言えるでしょう。ここまで読んでいただければ作りたくなったでしょう。ではお待ちかねのレシピです。

使うのはキャベツ1個が前提です。大きさに相当差が出るので、ここからは1キロ当たり(事実上、塩の量のみ)の分量となります。〔用意するもの〕


●キャベツ:1kg/●塩:20g(キャベツの2%)/●香辛料:黒胡椒等(好みの量)/●包丁:/●まな板:/●ボウル:(分量だけのキャベツが入る大きさのものを)/●ザル:(水切り用)/●計量秤:(できれば10g単位のものを)/●重し:(無くても可)//●作業用手袋:(無くても可)/●保存容器:(できれば蓋つきのものを)


  1. キャベツの芯をえぐる。ケガに注意。
  2. キャベツの重さを量る。
  3. キャベツの重さの2%の塩を用意する。
  4. キャベツをいくつかに包丁で切り分けてから、できるだけ細かく刻む。今度もケガに注意。
  5. 刻んだキャベツをザルに入れて水洗いし、十分に水気を切る。
  6. 水洗いしたキャベツを何度かに分けてボウルへ移し、その都度用意した塩を振り、キャベツを揉む。
  7. 出てきた水気は捨て、全部を揉みこんだら好みの香辛料を加えて全体的に馴染むようにする。
  8. 揉んだキャベツを保存容器に移し入れ、日の当たらない所で保存する。
  9. 夏場なら常温で3日程度、冬場でも1週間程度で発酵が進みできあがり。


〔ポイント〕


◆最大のコツはできるだけ塩揉みしたキャベツを空気に晒さないこと。
◆発酵が進めば汁が白濁するが、これは異状ではない。ただし塩分が足らずさらに条件が悪いと腐敗するので、味見をするとよい。
◆重しや作業用の手袋は使用しなくても作ることができる。
◆風味付けや防腐効果のために赤唐辛子を好みの量加えるのも可。ただし万能ではないので注意深く見守ること。

〔ひとこと〕

◇酢漬けではありません。味の調整程度ならお好みで入れても構いませんが、発酵を妨げることもあります。
◇発酵が進み過ぎないうちに使い切ってください。

いかがです。かんたんでしょう。なお、キャベツの塩揉みでも十分食べることができますよ。この場合は食べ過ぎずにきちんとザワークラウトの分を残してくださいね。本末転倒となりますから。
野菜の酢漬けも時期を見計らって紹介させていただきますので、お楽しみに!

≪壊血病の予防にも 大航海時代の台所事情にも叶ったザワークラウト≫


世界史の流れの上で大きな転機となったのは「大航海時代」でした。「新世界」からもたらされた数え切れない財貨はヨーロッパを大いに潤して閉塞した「中世」から一挙に「近世」への転換する大きな契機となったのです。
しかし船乗りの視点からは大航海時代は苦難の歴史でもありました。今日の巨大なクルーズ客船は豊富な電力により冷暖房が完備していて乗客は言うに及ばず、乗員も快適に過ごせるようになっています。科学の進歩は、酷暑の赤道を挟んで両方の極地にまで観光客を運ぶことができるまで進歩しました。冷えたワインやビールにアイスクリームだけではなく果物や野菜、肉類も大量に保存できて快適に船旅を楽しめるようになっていますね。


しかし大航海時代は食糧の確保さえ困難続きであり、世界の地図と海図は常に死と隣り合わせだった当時の船員たちの犠牲と努力によって書き加えられた功績を忘れてはいけません。大量に積み込んだ食糧と飲料も日を経るにつけて変質やがて腐敗して、異臭を放つ食物との闘いという側面を多くの人は知ろうともしないのです。
新鮮な野菜などが欠乏すると「壊血病」に侵されることは誰しもが知っています。科学と医学が未だ迷信を含んだ経験則に支配された時代では、誰かが成功した事例に無条件で従うのは当然のことでした。理屈は知らない。わからない。けれど結果が伴えばそれが次の常識となる。かなりの保存が見込まれるザワークラウトが船倉に持ち込まれたのは幸運なことでした。


しかし船乗りは変化を嫌う人種でもありました。発酵と腐敗との区別が多くの船員にできたとは思えないので、「酸っぱい食べ物はごめんだ」と敬遠されたのも理由に挙げられるでしょう。船乗りは階級社会で、現在の海軍でも士官(将校)と下士官、兵は居住区も食堂でさえも分離されているように、上級船員は貴族やそれに準じた階層、一般の船員は浮浪者を含んだ平民以下の階層で構成されていました。待遇、特に食糧の配分をめぐって反乱が多発したのはこういう事情があったからなのです。でもどの時代にも知恵者はいるもので、その機転が壊血病の予防となったのはすばらしい功績でした。



人間は他者の行動に興味を持つという性質があります。それならそれを利用しない手はない。誰が始めたのかはともかく、上級船員の一人が積み込まれているザワークラウトに一般の船員が手を出さないの見て「それならお前たちは喰うな!」と禁止令を出したのだとか。そうすると不思議な考えが広がるもの。禁止されればやってみたい。日が経つつにつれて上級船員たちが口にするザワークラウトに対する興味は増す一方に。そしてついに「俺たちにも喰わせろ!」との要望が出され、これが結果として壊血病の根絶につながったのだとか。まあ、食糧は減る一方だったので、遅かれ早かれ酸っぱかろうが腐りかけていようが、喰えるものは口にした、という事になったのだとは思うのですが…。


後に壊血病の予防には柑橘類が効果的だと判明してこれらの果実も船員に供されるようになり、長い間船乗りを苦しめた壊血病は姿を消してゆきました。
巨大な海洋という魔物の巣窟に挑んだ命知らずの屈強な男たちも、胃袋の悲鳴には抗えなかったという点に改めて「人間」という生き物の面白さを教えてくれた出来事の一つだと認識しています。船乗りたちが迷信深いのも、多くの悲劇に遭遇して生き残った人間の体験を口伝い続けてきたと思えば納得できるでしょう。この種の逸話は多く、これからも機会があれば紹介してゆきましょう。


一つの食べ物がもたらした、思わぬ功績。今回の主役のザワークラウトも、少なくともこの日本では知られていない食品です。しかし日本人が大好きなビール、それに非常に合うドイツ料理には欠かせない一品として重宝されているのです。私たちが大好きなとんかつには盛り合わせのキャベツが欠かせない。それと同じことがザワークラウトにも言えるのですよ。ほくほくのじゃがいがいもに煮込み料理に、魚料理、それに揚げ物やハムにベーコンにソーセージなどなど。まずは自分の手で作って好きになってください。すべてはそれからなのです。