利用者ブログ - 10.21シリーズ:神戸と兵庫のご当地ソングたち


兵庫県に縁(ゆかり)のある名曲についての3回目です。
有名な歌手が歌う曲もかなりの数があるのですが…印象が薄いのが正直な感想です。
そこで今回は華麗な女の園を象徴する曲を選びました。

≪名曲は意外だらけ≫


宝塚歌劇団。言葉の響きから美しく感じられます。関西では超有名な企業集団の創始者が、自分の夢の具現化ということで発足しました。なんとも贅沢な話ですね。「経営の神様」という尊称にふさわしく、既に創立から一世紀余が経た現在でも「宝塚大劇場」を拠点に東京にも自前の劇場を持ち、テレビなどでもお馴染みの存在です。
「清く正しく美しく」がモットーで、この曲はそれのイメージにピッタリと合致した名曲として歌劇団の団歌のように扱われているのは御承知でしょう。
でも、調べてみると意外なことが判明してきました。


まずはよく耳にする冒頭の歌詞よりも前に導入部が置かれていること。それも相当な量として。聴き馴染んでいる歌詞が終わってからそちらも謳われるのですが、実際に耳にしたらメロディが異なっているので、かなりの違和感を感じました。
そして何よりもこの曲が宝塚歌劇団のオリジナル曲ではないというのも少なからぬ驚きでした。歌劇団の通常の公演は二部構成で、前半は芝居、後半がショーとなっており、その最後を飾るのがフィナーレとなっています。この曲はそのイメージに直結することが多いと思いますけど、必ずしも締め括りで歌唱されるとは限らないようです。
そもそもこの曲が宝塚で最初に歌われたのは昭和の初め頃。結団からすでに十年余が経っていました。そしてこの歌劇団を象徴する軽やかなメロディのこの歌の原曲が外国映画(ドイツ)で使用されたものを歌劇で使用したという経緯があったのです。
当時の日本は既に外国の影響を色く受けた国の近代化を果たしていて、政治的にも完全に対等の地位を築き上げていました。しかし文化という点では比肩できるレベルではありませんでした。


大衆文化の華として活動写真がサイレントからトーキーを経て映画に変わっていた時代です。洗練された欧米の華やかな内容と比べても、国産の黎明期の映画はまだまだ田舎芝居のように見做されていたとして不思議ではありませんから。
そうです。歌劇は夢を売るのが商売ですから。例え虚構の世界の積み重ねではあっても、それを忘れるためにわざわざ電車に乗って沿線に田圃の残る宝塚まで足を運んだのですからね。色彩とロマンと、それに見合う演出で構成される光の舞台を象徴する曲が求められたのは当然だったのでしょう。



タカラヅカはフランスのパリに例えられることがあり、団員をタカラジェンヌと愛情を込めて呼ぶこともあります。原曲がドイツの曲というのも微妙なところで、両国を同列に考えるのは少し無理があるようですが、そういう点にこだわらないのも文化的な第三者たる日本人の特性かもしれませんね。要するにこだわらずに良いものだけ取り入れるというような。
歌詞のすみれも原曲ではリラ(ライラック)であるのも特徴的ですよね。現在ではライラックはそうは珍しくなくなったものの、昭和の初期では日本人には馴染みの薄い花でしたので、「乙女の園」(団員は全員未婚女性)たるタカラヅカに求められる純情可憐さにつながるすみれが選ばれたというのも意味のあることだと思いました。


歌詞もよく練られています。歯切れの良い明るく楽しい語調ですよね。実に美しい言葉の流れです。そこには伝統的な大和言葉の美意識があり、それと西洋の文化を大きく取り入れた歌劇との合致。女が女を演じればより艶めかしく、女が男を演じれば倒錯的な要素を含む妖しい魅力が舞台の隅々から大劇場の中に大きく広がる夢の世界。確かに的確な選択でした。
もちろん宝塚歌劇も順調に地歩を歩んでいただけではありません。その結成も最初は企業の宣伝目的から始まり、温泉の浴槽の上に急拵えの舞台から始められ、戦中の苦労や不景気による長期の低迷と、存続の危機が叫ばれたことさえもあったのですから。その窮地を救ったのは少女漫画を原作とした超ロングラン作品との出会いからでした。日本とはかけ離れた革命と混乱にまみれた王朝末期の哀愁と主人公たちの決してかなわぬ悲恋に涙した人は本当に多かったのです。



少女趣味の延長だと嘲るのは失礼ですよね。人は誰しもが夢を見たいもの。その本質がある限り、この大いなる夢の舞台に蔭りが訪れることはないでしょう。
歴史的な経緯とかは置いておいて、老若男女を問わずにこの夢空間に足を運んでみたくはありませんか?。人目が気になる方も居られるでしょう。しかし幕が開き、華麗なる世界が始まると皆が皆、舞台の団員たちの一挙手一投足に釘付けとなるのです。そしてこう思うのですよ。「また来よう!」とね。

多くの人に感動を与えて新しい節目を迎えたタカラヅカは伝統と新しい挑戦を抱き合わせて今も人々を待っているのです。『すみれの花咲く頃』は歌劇団のテーマソング。実際に劇場へ足を運べなくてもこの曲を耳にしたら、華麗なる夢を忘れないようにしてもらいたいものです。