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故・中沢啓治(なかざわ・けいじ)氏。この日本よりも、海外での知名度の方が高いでしょう。氏自らの広島での被爆体験を語り続け、生業である漫画制作を通して戦争の惨禍の廃絶に生涯を捧げた方です。もちろん代表作は中沢氏の実体験を基にしたライフワークである『はだしのゲン』ですね。この他にも多くの原爆をテーマにした作品を世に送り出しました。近現代の歴史漫画も多く、戦争に関する作品もたくさんあります。

これは意外と知られていませんが、付録を重点とした、一般書店の雑誌とは違って配達員が宅配した学習雑誌にも「学習漫画」を多く執筆されていました。今回は中沢氏の活動がテーマではありませんので詳細は省きますが、学童の勉学用にも用いられるだけの力量があったことはまちがいありませんでした。

その中沢氏が、本土復帰前の沖縄について少年誌で連載した漫画がありました。今回のテーマはその作品と米軍の軍政下にあった「琉球政府」時代の終わりの頃の話です。ただ、言うまでもありませんが本作は少年向けの漫画作品ですので、当然フィクションです。後述するように綿密な現地での取材には基づいてはいるものの、必ずしも実話を全て漫画化した訳ではありません。それでありながらも暗くて重いテーマを扱いながら、当時の少年たちへ平和への熱きメッセージをふんだんに盛り込んだ力作なのです。

<漫画作品『オキナワ』について>

作品名は『オキナワ』です。このカタカナ表記には様々な意味が含まれていますよね。伝統的な「琉球」でも日本の一部であることを表す「沖縄」でもなく「オキナワ」。政治的な意味を抜きにしても、「日本でありながらも日本ではない」という意味が明確に込められているのです。現在でも日本に散在する在日米軍の基地「内」には日本の公的権力は及びません。在外公館と同じく「治外法権」が認められているからです。在日米軍の基地ではあっても、割譲地でも租借地でもありませんから「日本領内での外国の軍隊が駐留するための基地」ということになりますが、現実はどうか…ということですね。こういう点からもアメリカの領土のように誤解される理由とはなっていますが、本土復帰以前の沖縄は米軍の統治下であり、選挙による民選の議会も存在はしていました。
ただしそこでの議決も軍当局の決定で覆された事例も実に多く、当時の沖縄の住民たちの意思による自決とはほど遠い実情だったのです。その視点からもアメリカにとっての「OKINAWA」は発音どおりの「オキナワ」であり、本土復帰を望む沖縄住民たちにとってもそれが現実でした。

この『オキナワ』はそんな状況下のベトナム戦争の最盛期だった頃の物語なのです。